ラダーと事例から学ぶ家族志向のケア**中外医学社/若林 英樹/978-4-498-12014-3/9784498120143**
家族療法の考え方とスキルをプライマリ・ケアに活用する
発行 2024年6月
判型:B5判 222頁
ISBN 978-4-498-12014-3
【編 著】
若林 英樹(三重大学 医学部 総合診療科)
宮本 侑達(ひまわりクリニック)
田中 道徳(岡山家庭医療センター 奈義ファミリークリニック)
山田 宇以(聖路加国際病院 心療内科)
松下 明(岡山家庭医療センター 奈義ファミリークリニック)
患者個人の問題は家族の問題でもある?!
「家族が絡む事例にどのように向き合うか?」「個別性の強い家族への対応をその場しのぎにしないためには?」など,患者の背景に存在する家族問題への介入は容易ではありません.家族は複数のメンバーがそれぞれの気持ちや考えをもち,相互に複雑な関係性をもち,また家族にはそれまでの歴史や文化があるためです.
本書は家族をシステムとしてとらえ,家族療法の理論・スキルを応用し,さまざまな医療現場で実践できるように工夫しました.総合診療,家庭医療でトレーニング中の医師はもちろんのこと,家族問題に難しさを感じたことのある医療者であれば誰でも役に立つ内容となっています.
【家族志向のケアにおけるラダー式学習目標】
レベルごとの技術をマスターして,家族問題への適切な介入を目指そう.
レベル 1「医師主導で情報を扱う」,レベル 2「双方向に情報を扱う」,レベル 3「感情面を扱う」,レベル 4「家族関係を扱う」,レベル 5「困難事例を扱う」
【目 次】
1章 イントロダクション
家族志向のケアとは
はじめに
家族という概念
家族志向のケアの誕生と発展
家族志向のケアの効果についてのエビデンス
病気と家族
システムとしてみる家族
家族が病気に及ぼす影響,ソーシャルサポートとしての家族
病気が家族に及ぼす影響
健康信念,病気の意味づけと家族
家族の心理的適応
医療者と家族
2章 家族志向のケアにおけるラダー式学習目標
発想と概観
レベル1 医師主導で情報を扱う
知識・技法の解説
I 診断・治療(精神疾患も含む)に必要な情報を聴取できる.
II 家族歴を聴取できる.
III 臨床的・法的・倫理的に最低限必要な情報を聴取し,説明できる.
IV 情報に基づいたアドバイスや処方をはじめ治療や対応を行うことができる.
V 危機的状況のアセスメントと緊急対応ができる.
目標となる診察/事例解説
レベル2 双方向に情報を扱う
知識・技法の解説
I 患者と家族がそれぞれ影響し合うことを理解できる.
II 配慮すべき家族(ヘルスエキスパートや顧客)を理解し,把握することができる.
III 家族図の基本的事項(関係性を除く構成のみ)を描くことができる.
IV 患者や家族とラポール形成を意識することができる.
V 患者や家族の解釈モデルを引き出すことができる.
VI 臨床家・患者・家族が互いに満足できるプランを立てることができる.
目標となる診察/事例解説
レベル3 感情面を扱う
知識・技法の解説
I 患者や家族の感情とその背景にある問題のとらえ方を理解できる.
II 患者や家族に共感し,その感情を反映して,その効果を意識できる.
III 多方向への肩入れを用いて患者や家族一人ひとりに公平に共感を示すことができる.
IV 患者や家族から引き出した感情やその背景にある問題のとらえ方に対してカウンセリング技法を用いて介入できる.
V 医療者と患者・家族の関係性の特徴を理解し,自らの診療場面における問題点を指摘できる.
目標となる診察/事例解説
レベル4 家族関係を扱う
知識・技法の解説
I システム論的視点から医師・患者・家族の相互プロセスを認識することができる.
II 家族の発達・機能・構造を理解し,家族アセスメントを行うことができる.
目標となる診察/事例解説(1)
III アセスメントをもとに方略を立て,家族カウンセリングを実践できる.
IV 家族カンファレンスを5つのステップに沿って実施することができる.
V 医療者と患者・家族の関係性を認識し,コントロールできる.
VI レベル4とレベル5を区別し,専門家につなぐべきタイミングが理解できる.
目標となる診察/事例解説(2)
レベル5 困難事例を扱う
知識・技法の解説
I 家族支援の専門家や,それ以外の拡大可能なリソースを把握することができる.
II 支援の五角形を意識しながら,臨床家自身,患者,家族,医療リソース,地域リソースのシステムをアセスメントすることができる.
目標となる診察/事例解説(1)
III アセスメントに基づき,臨床家自身の職務・能力・労力の限界を認識した上で,必要に応じて支援システムを適切に拡大し,システム全体を調整できる.
目標となる診察/事例解説(2)
IV 過去の自分の経験を意識し,自己省察を行いながら,医師自身のストレスなどに対処できる技術を身につける.
目標となる診察/事例解説(3)
3章 臨床事例集
イントロダクション
事例から学ぶ重要性
本章の構成
本章を個人・グループ学習に活用する方法
ケース1[外来]予防接種の遅れがある4カ月女児から母親の育児不安を認めた事例
ケース2[外来]不登校の14歳女児から三世代をめぐる家族内葛藤を認めた事例
ケース3[外来]適応障害の52歳男性から夫婦関係の再調整の困難さを認めた事例
ケース4[外来]5歳男児の診療中に夫婦の役割についての認識の違いを認めた事例
ケース5[外来]頭痛で救急受診を繰り返す46歳女性から原家族の価値感への葛藤を認めた事例
ケース6[病棟]糖尿病の内服アドヒアランスが低下した5(3)歳男性から長期のひきこもり問題を認めた事例
ケース7[病棟]嚥下困難となった78歳女性の人工栄養をめぐり家族内で意見対立を認めた事例
ケース8[在宅]がん終末期の78歳男性の療養先をめぐり家族内で意見対立を認めた事例
ケース9[在宅]認知症の89歳女性に対して不適切な介護を行う長男に家族や多職種が困った事例
困難事例1皮膚科医から家族志向のケアを依頼された難治性アトピー性皮膚炎10歳女児の事例
困難事例2自閉スペクトラム症を認めひきこもりとなった24歳男性の事例
困難事例3認知症により50年連れ添った夫婦関係に悪循環パターンが生じた74歳女性の事例
困難事例4家庭内暴力や家族内の精神疾患を認めた72歳男性に病棟多職種を含めたMedical Family Therapyを行った事例
4章 おわりに
家族志向のケアの学習と教育
基本となる学習モデル
医療面接・心理療法の訓練とスーパーヴィジョン
治療者自身について
まとめ
よくある質問と答え FAQ
学習のための書籍・団体リスト
さいごに
〈プロからのワンポイントアドバイス〉
◆家族志向のケアを実践へつなげる有用な5つの質問
◆高度な共感の技術
◆家族の発達・機能・構造の視点
◆きょうだい順位と性格
◆日本に多い特徴的な家族構造
◆外来で効果的なブリーフセラピー
◆近位リソースの例とその特徴